魂の骨格 S.H.MonsterArts ゴジラ(2017)発売記念 『GODZILLA 怪獣惑星』スタッフ対談 瀬下寛之 監督×片塰満則 造形監督
2017-12-01 11:00 更新
CGアニメーションという新たな表現で制作されたゴジラ映画最新作。その第1章『GODZILLA 怪獣惑星』がいよいよ公開された。そして「怪獣(モンスター)」をフィーチャーしたアクションフィギュアシリーズ「S.H.MonsterArts」シリーズからも本作のゴジラ(2017)が公開に合わせて12月2日(土)に発売となる。
作品と商品の同時展開は「S.H.MonsterArts ゴジラ」シリーズ初の快挙である。
これを記念して本作の監督である瀬下氏と造形監督の片塰氏に、アニメ版ゴジラのコンセプトと商品をご覧になった感想を語っていただいた。
――まずは本作『GODZILLA 怪獣惑星』版ゴジラのデザインコンセプトについてお尋ねします。東宝さんからはどのようなオーダーがあったのでしょう?
瀬下:実は東宝さんからは「自由にやってください」と言われたんですよ。それを聞いて僕と共同監督の静野孔文さん、そして脚本の虚淵玄さんも「いいんですか?」と驚きました(笑)。
でも制約がないのもそれはそれで難しくて最初は悩みました。
--制約の少ないCGならではの表現は意識されたのでしょうか?
片塰:CGである事は意識せず、まずコンセプトありきでしたね。
瀬下:本作のゴジラで何を表現すべきかをまず考えて整理し、それをCGでどう描くかを片塰造形監督に相談する……という流れでした。
片塰:たしかにCGは造形物や絵に比べると表現の制約は少ないです。人が着て動かす造形物はデザイン・重量・材料などの制限があるし、絵も生産性を考えると手で描けるディテールには限界があります。ただ逆に、造形物には制限ゆえの物としての説得力があり、絵にはアニメーターが限界に挑むという魅力があるんですよ。そのような魅力を持たないのがCGの制約と僕は考えています。CGは制約がないぶんキャラクターを「信じるに足りる存在」にする工夫が必要なんです。
瀬下:CGは手描きアニメに比べて感情移入し難い。だからキャラクターを作る時に「物」が「語る」ということにこだわっています。
物がその形態になる経緯や成り立ちを考えるんですね。「物・語」の両方が成立することで、演技用語で言うところの「不信の停止」を実現し、観客に疑いなく没入してもらう。
そのための説得力がキャラクターに必要なんです。
--「御神木」というコンセプトはどのように導き出されたのでしょう?
瀬下:理由は二つ。まず虚淵さんの初期プロットにあった「今回のゴジラは生命進化の頂点である」という原案です。
そこから現実世界で長命かつ巨大な生物は何かと考え、何千年という単位で生き続ける樹木に辿り着きました。そして屋久杉やメタセコイヤなどの巨木・古木をモチーフに選んだんです。
そしてもう一つ、今回のゴジラは落雷や地震、台風などの自然現象のような存在にしたいと考えました。原始宗教における信仰の対象です。これに先ほどの植物が加わって「御神木」というコンセプトに至ります。
そこから謎の金属元素を多分に含んだ「超進化した植物」という設定に繋がっていきます。
片塰:僕はその植物という設定に凄く感銘を受けました。でも過去のビオランテやマンモスフラワーのような植物怪獣ではなく、この怪獣をあくまでもゴジラとして表現しなければならないんですよ。それにはどうすれば良いかを色々と考えました。
まず悩んだのは皮膚の表面です。ゴジラの体表って焼け爛れた皮膚とか、固まった溶岩のようにゴツゴツしていますよね。一方、海外ではトカゲなどの爬虫類的な解釈をしている。
でも今回は植物なので違う表現にすべきなのですが、かと言ってピノキオのような身体にはしたくなかったんです。
瀬下:身体のあちこちから葉っぱが生えたデザインは違うよね?という事です(笑)。
片塰:そうそう。身体のあちこちが枝分かれしたり、サボテンのような体表にする案もありました。でも、それも違うと思ったんです。
瀬下:サボテンみたいなゴジラって可愛いかも(笑)。
片塰:それ以外に植物を表現する方法はないか模索していたところ、瀬下監督が集めてくれた現代美術の資料に面白い写真があったんです。
そこに載っていた流木で作った動物の彫刻がヒントになり、そこから植物の繊維を体表として表現することを思い付きました。また繊維のパターンを筋肉のようにすれば構造に意味を持たせる事もできますからね。
実は動物の筋肉も繊維で出来ていますから。
瀬下:植物は人間の時間軸では止まっているように見えるけれども、タイムラプス撮影で捉えるともの凄く豊かに動いています。
また小さな雑草さえアスファルトを割る力を持っている。そのような力を我々と同じ時間軸で発揮できる植物という設定なんです。本作のゴジラは。
片塰:そのように動けるのは繊維が筋肉のような構造になっているから……という事にすれば説得力もあると思ったわけです。
瀬下:体内構造はデンキウナギも参考にしています。
デンキウナギは800V/1Aもの高圧電流を発電できる。身体のほとんどが発電器官になっていて、2メートル以上ある身体の中で内臓が入っている部分は全体の約1/5くらいです。
そして本作のゴジラは巨体の中に骨や内臓があるのではなく、身体の大半が発電装置の役割を持つ繊維の塊として設定しました。
片塰:こうして「繊維」という発想から「筋肉」、「発電装置」と広がりました。
その特徴が最も顕著に出たのは尻尾です。あれは金属を編み込んで作るシールド線のイメージなんです。
--そのような新要素を盛り込みつつ、龍のような顔や背ビレなどの象徴的なパーツは活かされ、ゴジラとしても成立したデザインになっていますね。
瀬下:最初期案ではもっと潰れた顔だったのですが、神聖さを出そうとしたら現在のように長くなっていきました。
片塰:長くした事で賢者のような顔立ちになりましたよね。何となく頭が良さそうなイメージで(笑)。
瀬下:Tレックスのような捕食動物特有の凶暴感は出したくなかったんです。
だから頭を小さくして、恐ろしい姿だけど目だけは優しい感じにしました。人間以上の知性を感じる目にしたかったので。
片塰:また背ビレのないゴジラという発想は最初からありませんでしたね。瀬下監督の最初のスケッチの段階で既に生えていましたし。
瀬下:やはりゴジラの個性かと。
片塰:今回は背ビレに見える葉っぱという設定にしました。
トゲのある柊や食虫植物などのイメージで、植物ならではの攻撃性を取り入れています。ここは設定とデザインが上手く合致した部分ですね。
瀬下:歯や爪もそう見えるだけで実際にはトゲなんです。背ビレや歯や爪のようなものは全て植物が「擬態」してます。
アニメ版ゴジラの世界に登場する全ての怪獣達は突発的な生物淘汰現象という一大イベントで発生した設定であり、彼らは哺乳類、爬虫類、昆虫などの各種族の代表で、それらを全て駆逐して頂点に立ったのが超進化した植物である本作のゴジラです。
その姿は、他種族の頂点達、ワシやライオンやヘビ…などの特徴だけが集められて擬態されたものです。
そして、解剖学的な正しさというより、印象として「威厳」を感じるような特徴も持っています。
片塰:これは僕の勝手な解釈ですが、最初に「威厳」と聞いて思い浮かんだのは「風の中に立つオールバックの老人」だったんですよ(笑)。そのイメージも少し盛り込んでいますね。
瀬下:片塰さんにポージングのイメージを相談した時、パヴァロッティなどオペラ歌手の写真を見せられたんです。あれは可笑しかったですね(笑)。
でも、完成したビジュアルを見て納得しました。
片塰:攻撃的なポーズにはしたくなかったんですよ。そこで思い浮かんだのがテノール系のオペラ歌手でした。
--ガッチリした体型や長い脚も今回のゴジラの特徴になっていますね。
瀬下:ファンの間では「相撲取り体型」とも言われていますが(笑)、確かに運慶の金剛力士像を参考にしたりしてますので、概ね正しいです。
あれも解剖学的に正しい筋肉ではなく、昔の人が考えた「強さの象徴」が造形の特徴ですね。
片塰:おそらく当時の力士をモチーフにした体型なんでしょう。僕は以前から日本ならではの筋肉表現をモチーフにしたキャラクターを作りたいと考えていたんです。ヘラクレスなどのギリシア彫刻にはない日本発祥の造形感をいつか使いたいと思っていました。
それが今回のゴジラで実現できたのが嬉しかったですね。
瀬下:脚を長くしたのも鈍重なイメージにしたくなかったからです。俊敏そうな感じを表現しました。
世界観こそハードSFで、洋画的なスタイルですが、御神木や金剛力士を入れることで日本らしいキャラクターになったかと思います。
片塰:これら全身に関しては解剖学の知識を元にデザインできたのですが、尻尾だけは難しくてすごく悩んだんです。
このような身体構造の生物が現実世界にはいないので何を参考にすれば良いのか分かりませんでした。
学生時代に美術解剖学を専攻していたので、解剖学をまったく無視したデザインはできないんです。嘘をつくにしても正しい形から導き出した嘘でないと納得できないし、そこまでやらないと説得力のあるキャラクターは生まれませんからね。
瀬下:蛇もどんな進化過程を経てあのような構造になったのかは謎が多く、近年になってようやく判明したらしいとか。
片塰:蛇って実際に脊椎を動かして移動しているのに、その動作のための筋肉がどう繋がっているかは謎なんですよ。そこで先ほどお話ししたように、尻尾だけはワイヤーのような人工的な構造物を参考にしました。
瀬下:かつ尻尾は重い体重を支える第3の足として機能しつつ、いざとなったらシーソーのように上げて、全力疾走できるようなバランスにしています。
その際にはTレックスのように前傾姿勢になるのですが、作中での彼は無敵なので全力疾走の必要はですね(笑)。
--「S.H.MonsterArts ゴジラ(2017)」の監修でこだわった部分はどこでしょう?
片塰:最もこだわったのは身体表面の繊維状ディテールです。そして全身の上向きの面には緑系の明るい色を乗せていただきました。ここは長い年月を経て苔生したイメージなんですよ。あとは「可動部に大きな隙間が空かないように」ともお願いしました。
ここはアクションの都合上、難しいと思っていましたが、上手く処理していただけましたね。
瀬下:最初から完成度が高かったので、僕らもあまり言う事がなかったんです。
むしろ原型師さんやバンダイさんには「実物として生み出す方々」の解釈や造形技術の凄さを教えてもらった感じです。
--実は「S.H.MonsterArts」で作品と商品が同時進行できたケースって珍しいんですよ。お陰様でシリーズ最速という快挙を成し遂げました。
瀬下:そうなんですか? じゃ公開と同時発売って僕らのゴジラが初!? それは嬉しいですね。
片塰:早い段階から動いていた企画でしたからね。僕らが最初に監修したフィギュアがこの「S.H.MonsterArts ゴジラ(2017)」だったんですよ。
瀬下:1年くらい監修のやりとりや打ち合わせが続きましたよね。それだけ時間を掛けて取り組んでくださったのは嬉しいです。
片塰:「設定に近づける」という監修方法だと、せっかく色々な商品があるのに全て同じ物になってしまうんですよ。
ソフビにはソフビ、アクションフィギュアにはアクションフィギュアの特性を活かすべきだと思うので。そして、この商品は我々のデザインと商品の特性が上手く噛み合った商品だと思います。
--実際に商品をご覧になった感想をお聞かせください。
瀬下:……感動のあまり言葉を失いますね。いや本当に良く出来ていると思います。
片塰:パーツ分割は完全にお任せだったのですが、すごく納得のいく形に仕上げていただきました。首にあるV字型の「胸鎖乳突筋」の分割が素晴らしいですね。
あと特に感心したのは尻尾です。編み込んだ形を活かした分割可動になっているのが驚きました。
瀬下:この広背筋のたくましさとか良いですよね。
片塰:これらの手足や肩、背中の筋肉は力士を意識したんですよ。従来のゴジラにないボリューム感を意識したのですが、それらの筋肉もしっかりと造形表現されているのが良いですね。あと前傾姿勢にも出来るのも可動フィギュアならではの魅力ですね。
このポーズは劇中でも予告編でもけっこう見せているので。
瀬下:このように前傾姿勢にするとシルエットが一変するんです。過去のゴジラにはない形になる。
この姿が僕らのこだわりを象徴しています。そのコンセプトが立体再現できる事にすごく価値を感じます。
片塰:ゴジラというシルエット上の縛りがある中で、どこまで新しいイメージを加えられるかが僕らの目標でしたからね。
瀬下:実在する立体物というCGでは表現できない存在感も魅力ですね。まるで僕らのアニメの実写版を見ているようです。これを使ったコマ撮りアニメを撮ってみたいですね(笑)。
--最後にファンにメッセージをお願いします。
片塰:これまでお話ししてきたように、僕らのゴジラには様々な言葉や形から連想された物をデザインに込めました。それらのイメージを読み解く「補助的な教材」として、映画をご覧になった方はこのフィギュアを手元に置いてほしいです。
また今回のゴジラは過去の作品以上にアクションをしていて、このフィギュアはそれらの動きをいかようにも再現できるんですよ。ぜひ、手にとって楽しんでいただきたいです。
瀬下:「劇場に行っていただいて、フィギュアもお手元に置いて下さい」という事ですね。今の意見が素晴らしいので共同意見にさせてください(笑)。
--本日はお忙しい中、ありがとうございました。
【プロフィール】
瀬下寛之【せした・ひろゆき】
1967年、神奈川県出身。
1989年にリンクスに入社し、映画『河童』(1994)、『パラサイト・イブ』(1997)などのCG制作を務める。2000年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。ゲーム『ファイナルファンタジーX』(2001)シリーズや『キングダムハーツ』(2002)などのムービーデザイナーやVFXスーパーバイザーを務める。2004年にカシオエンターテイメント設立に参画。『大日本人』(2007)や『しんぼる』(2009)のVFX監督を担当。2010年にポリゴン・ピクチュアズに入社。『シドニアの騎士』(2014)の副監督、『シドニアの騎士 第九惑星戦役』(2015)の監督、『亜人』(2015)の総監督、『BLAME!』(2017)の監督を務め現在に至る。
好きな怪獣はキングギドラとメカゴジラ。
片塰満則【かたあま・みつのり】
1964年、山口県出身。
1990年にリンクスに入社しOVA『マクロスプラス』(1994)のCGディレクターを担当。1995年にスタジオジブリに入社し、『もののけ姫』(1997)、『千と千尋の神隠し』(2001)、『ハウルの動く城』(2004)等、多数の劇場作品でCG監督を務める。2010年よりポリゴン・ピクチュアズに在籍し、『トロン:ライジング』(2012)『シドニアの騎士』(2014)『山賊の娘ローニャ』(2014)等のテレビシリーズで造型監督を担当。 アニメ『亜人』(2016)ではキャラクター造型、ルックデベロップメント(質感の設定)、版権イラスト演出を手がけ、『BLAME!』(2017)では光画監督を務めた。
好きな怪獣はモスラとブルトン。
S.H.MonsterArts S.H.Figuartsで培われた、可動(アクション)フィギュアの技術を使用し、『怪獣(モンスター)』にフィーチャーしたアクションフィギュアシリーズ。それが『S.H.MonsterArts(エス・エイチ・モンスターアーツ)』である。 |
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