魂の骨格 「HI-METAL R リガード」商品化記念 メカニックデザイナー・宮武一貴 スペシャルインタビュー
2015-10-16 16:00 更新
■ポイントが絞り込まれていて本当に恰好よくなりました
――今回、工場から届いたテストショットサンプルをお持ちしました。「HI-METAL R リガード」はいかがでしょうか?
宮武:立体プロダクトには、開発者が「この角度で見てほしい」というアングルが必ずありますよね。
――脚部にはポージングの可動域を広げるための機構が入っていて、股関節は外側にスライドして伸びるようになっています。ヒザの三重関節とこのスライドの組み合わせで、折り畳みが可能になっているんです。
宮武:なるほど。たしかに伸びそうだなと感じていたんですよ。リガードはこの脚を畳んだ姿勢がいいです。なんだか落ち着きます。あらためてリガードを見ると愛嬌があって、グロかわいいですよね。ボディの凹み、“えくぼ”もいいです。
――頭部といいますか、本体部はシンプルながら独特な形状ですよね。
宮武:丸いボディは見る角度によって、どことなく旧式の戦車を彷彿させますよね。既存の兵器に似ているのではなく、あくまでも“印象を彷彿とさせる”という意味で。こうやって見ると、ものすごい立体物だと思います。今まで立体化されてきたメカとはちょっと違いますよね。
■河森デザイン“最大の名機”と言ったら、彼は泣くかもしれないけど(笑)
――そもそも、リガードはどのようなコンセプトから生まれたメカだったのでしょうか?
宮武:敵に見えるかどうかはともかく、確実に地球外のものであるように意図しました。その中で極力、線を減らして動かしやすいデザインに、少しくらい立体を捉えそこなったような絵でも確実に“リガード”に見えることを当時、河森(正治)君とも話していました。
――メカデザインは河森監督なんですよね。
宮武:これは河森(正治)君がデザインした中でも傑作だと思います。この機体を河森デザイン“最大の名機”と言ったら、彼は泣くかもしれないけど(笑)。
――実際、制作現場で「リガードの描きやすさ」に関する評価はいかがでしたか?
宮武:線を減らしたから描きやすいかと言えば、そんなことはなくて。しっかり描こうとしたら、これほど描きにくいものはなかったようですよ(笑)。
アニメのロボットは実は通常、平面なんです。平面を立体のつもりで描いていた。ただ、スタジオぬえでは、常に三次元の立体としてデザインしている。だから、立体を把握してから線を通さなければならない。つまり線が多かろうが少なかろうが関係なかったんです。
――では、今回の立体化に関しては、当時のイメージを再現できていますでしょうか?
宮武:リガードは作画上、本体部は曲線ひとつで描いて恰好がつくようにしてあるんですが、ではいざ立体化する際に劇中の曲線をそのまま再現すればよいものではないんです。本体部、頭の曲線は段差などをコントロールすれば本当にすごくよくなる。そのあたり、当時のことを思い出しながら監修させてもらい、おかげで本当に良いリガードになりました。
特に頭の曲面がしっかり表現できたので、こうやって眺めていると、すごく気分がいいです。これが当時のアニメで描ければね(笑)。
■巨大感を感じてもらいたいです
――今回、監修時に心掛けたことなどはありますか?
宮武:アニメーションの二次元では絶対にわからない、考えていても絵では描けなかった箇所を立体として表現することです。なおかつアニメーションの印象と違っていてはいけない。誰もがリガードとして認識できて、立体だからと言ってディテールアップした印象を与えず、あとはユーザーさんが納得して遊んでくれることを目標としました。放送当時のデザインとHI-METAL Rとでどこをどう変えたなどは、あまり気にしてほしくないところもあるんです。
――では、「HI-METAL R リガード」の見どころはいかがですか?
宮武:やはりコクピット内は覗き込んでみてください。折り畳みポーズでハッチが開くと雰囲気があっておすすめです。
――当時、コクピット内の詳細な設定画を宮武さんが描かれていましたよね。
宮武:人がどこまで小さく丸まれるかを検証して、設定を作りました。河森(正治)君は実際に椅子に座って試していましたね。体を小さくまるめて、指先で操縦できるかどうか。ここまで小さくできれば、誰も人が乗っているとは思わないだろうと。演出として、一条輝がゼントラーディと初めて遭遇するシーンで、リガードの中から兵士が出てきたときのショックが伝わるだろうと。まず10m近いゼントランが入れなければ、話にならないけど(笑)。
――たしかにあの球状のメカから10m級の巨人が出てきたら驚きますよね。
宮武:皆さんにはHI-METAL R リガードを足元から煽るように見て、巨大感を感じてもらいたいです。10m以上のものが目の前に迫ってくる巨大感。「マクロス」はそれが絵になる作品ですから。あとは手に取ってあちこち開けたり、動かしたりしてもらいたいですね。
■いずれ機会があったら、『マクロス7』の「バトル7」を立体化してほしいですね。
――HI-METAL Rでは今後もラインナップが続く予定ですが、立体化してほしいメカはありますか?
宮武:クァドラン・ローはもちろんですが、偵察艦のケルカリアかな。ゼントラーディの3人組が乗っていた船です。
――アーマードバルキリーとの戦闘シーンは印象的でした。
宮武:ちょっと変な船で、すごく好きなんですよ。
――やはり同スケールで再現とかも?
宮武:それだと相当大きくなりますよ。一応、あれは“艦”。シップですから。ゼントランから見ればマクロス艦ですら中型艦です。
『超時空要塞マクロス』の設定においては、ボートとシップを分けているんですよ。ケルカリア以下の大きさ、突入艇などはボートです。また、シップとボートの差は、フォールドの可否で、シップはフォールドが可能なんです。
――ケルカリア以外ではいかがですか? 『超時空要塞マクロス』に限らず、『マクロス7』からでも何かあれば。
宮武:バトル7はいずれ機会があったら、バンダイさんにお願いしたいですね(笑)。もちろん、バトルフロンティアでもいいですけど。
――『マクロス7』では、パンツァーゾルンも宮武さんデザインでしたよね。
宮武:河森(正治)君がエルガーゾルンをデザインしたんですが、途中で頼まれて設定画を描きました。パンツァーゾルンはイギリスの艦載攻撃機バッカニアをイメージしています。エリアルール(※超高速時の空気抵抗を減らすため、胴体を絞り込む形状)を応用した、僕の大好きな機体です。
■言葉では説明できないものをデザインすること
――デザイナーとして心がけているところ、魂の骨格についてお聞かせください。
宮武:言葉では説明できないものをデザインすることでしょうか。クライアントさんやユーザーさんに手渡して、あとは先方に判断してもらう。デザイン画であれば、見てもらった人にどう思ってもらってもかまわない。つまり、相手に手渡したあと、説明なしで通用するデザイン。それがプロの仕事だと思っています。コンセプトなど説明してもあまり意味はないんです。アニメーションでも、立体物でも、製作者側がいちいち説明しませんからね。
――今回は、そんな宮武さんにデザインコンセプトをお伺いできた貴重な機会となりました。
宮武:ユーザーさんには、コンセプトのことなどあまり考えずに見てもらいたいです。今回のリガードであれば、手に取って好きに遊んでください。
―― “デザイナーのお仕事”と言うことでは、今度、原画展を開かれるとお聞きしました。
宮武:2015年10月24日より横須賀の記念艦「三笠」内で開催します。『超時空要塞マクロス』に関しては当時の原画が残っていないため、あまりお見せできないのですが、その他の作品に関しては、企画段階のお蔵入り設定画なども含めて展示予定です。ほとんど公開したことのない貴重な原画もありますので、ぜひお越しください。
――本日はありがとうございました。
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メカニックデザイナー宮武一貴原画展
■原画展
期間:2015年10月24日(土)~11月23日(月・祝)
会場:世界三大記念艦「三笠」艦内
〒238-0003 神奈川県横須賀市稲岡町82−14
宮武一貴(みやたけ かづたか)
神奈川県横須賀市出身。メカニックデザイナー、イラストレーター、コンセプトデザイナー。
スタジオぬえ所属であり、創立メンバーのひとり。
マクロスシリーズでは、『超時空要塞マクロス』でマクロス艦やゼントラーディ軍の艦船、デストロイドなどのメカや世界観設定等を担当した他、『マクロスプラス』では舞台設定、『マクロス7』でのバトル7、シティ7や移民船団各艦等も担当。その他、『宇宙戦艦ヤマト』や『劇場版 銀河鉄道999』(アルカディア号)などのメカニックデザインを手掛け、最近では『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』のドラゴンデザインも担当。
日本のメカニックデザイナー職を確立した草分け的存在でありながら、今なお一線で活躍を続けている。
©1982 ビックウエスト
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