魂の骨格 第19回 原型師 安藤賢司(前編)

原型師 安藤賢司 インタビュー(前編) ~S.I.C.仮面ライダーW編~


造形界のトップクリエイター竹谷隆之氏、安藤賢司氏によるデザインの美しさや巧みな造形技術という「芸術美」に焦点を当てることで、日本のキャラクターフィギュア界に新しい概念を構築したS.I.C.シリーズ。
同シリーズでは、仮面ライダーシリーズに登場したキャラクターを、造形師が独自のイマジネーションで表現。その斬新なスタイルによって“驚き”を発信してきた。そして、2011年8月に発売予定の『仮面ライダーW ファングジョーカー&仮面ライダースカル』で59作品目を迎える。
今回の魂の骨格では、このS.I.C.シリーズの立ち上げから造形の核を担い続けている安藤賢司氏に、2011年4月に展開を開始した“仮面ライダーWシリーズ”を中心に“ものづくり”に対してお話を伺った。


■ S.I.C.仮面ライダーWシリーズ

── まずはS.I.C.として現在進行中の『仮面ライダーWシリーズ』について、お話をお聞かせください。

安藤賢司

安藤 今回のシリーズの魅力は、やはり“換装”が一番だとは思いますね。もともとダブルはハーフチェンジ(※左右の入れ替えによるフォームチェンジ)するライダーですから。その中で換装とアクションが一体化できている点が、自分の中では見どころだと思っています。

── 商品化発表の際、すでに半身の換装というコンセプトが見え隠れしていたように記憶していますが、実際、最初に企画のお話を聞いた時はどんな感想でしたか?

安藤 無茶ですよね(笑)。元々、バンダイさんに番組放映中から「当然、ダブルやりますよ!」という話になっていて……。そもそも劇中のダブル自体がハーフチェンジの換装だけに、やらないわけにはいかないでしょ、っていう(笑)。S.I.C.はアレンジが特徴ですが、近年はアクション性も若干売りにしつつある中で「本当にできますかね?」と……。
ギミックについてはバンダイさんからも、図面などで色々な案を頂きました。中には「これ、もしかしたらS.H.Figuartsでやろうとしていることなのでは?」と思われるアイデアもありました(笑)。

──アクション性という意味で、今回のダブルはすごく可動しますが、素材自体も新しくなっているのでしょうか?

安藤 初期のシリーズに比べれば、関節の部分の素材などは変わっていますね。今回原型段階では、関節をポンと外してパーツ付け変える仕様ではなく、塩ビ(ポリ塩化ビニル=PVC)とボールジョイントなどの堅い素材で受ける構造で想定していたのですが、実際に量産された際に抜き差しの最中にゆるくなってしまう可能性があった為、原型段階では別の可動パーツで代用していたんです。ただそれは「あまりに大変すぎる」と、工場の方で別の新しい素材や方法論を考えてくださって。
それこそ原型状態から型を取る際に関節で抜けるようなものを。
おかげでなかなか“へたらない”今の仕様になりました。だから実際の商品では、以前よりも優れた関節パーツが使われていると思います。より動かしやすく、保持しやすいものが。

──今回のメインギミックは左右の分割による換装ですが、結果的に可動にも影響はあったのでしょうか?

安藤賢司

安藤 そうですね、どうすればいいだろう……?と、最初はもう途方にくれて(笑)。足や腕はそのもの自体の分割がないのでよかったのですが、全体的にどうしたらいいんだろう……?っていうのはさんざん悩みました。

──これだけ普通に動くフィギュアですけど、1個1個がしっかりバラバラになって、しかももう1度別のフォームでも組めるのは素晴らしいですよね。

安藤 左右の換装だけならまだよかったのですが、『真っ二つになる』とか、『エクストリームになる』とか……。エクストリームは左右分割どころか全部分割だったので、けっこう無茶ぶりな……。
過去最大の無茶ぶりでしたね(笑)。

──過去最大ですか!? ちなみに、これの前の過去最大の無茶ぶりのタイトルは何だったんですか?

安藤 『S.I.C.VOL.28 仮面ライダーファイズ』のウルフオルフェノクとファイズのほぼ取り換え(笑)。

──それも換装で再現でしたよね(笑)。

安藤 当時、「これ、どうするんですか?」となって……(笑)。
まあ結局これもほぼ換装、というか(パーツの)取り換えですけど。
オルフェノクの時は、本当に企画の最初の時は「オルフェノクの上からファイズをかぶってほしい」と言われて……。「あの、オルフェノクのほうが大きいんですけど……」って(笑)。

──当時のそれを越えてしまったわけですね(笑)。

安藤 越えましたね(笑)。
最初は真っ二つに割れてなかったんですけどね、「やっぱり必殺技(※ジョーカーストリーム。ライダーの体が左右に割れ、左右時間差でキックを放つ)だから、再現できないと」と言われて。

──確かにそうなりますよね(笑)。

安藤 じゃあ、「別のパーツ付けていいですか?組み替えていいですか?」って(笑)。

──換装という意味では、この後にリリースが予定されているヒートメタル、ルナトリガーでも、しっかり再現されていますよね。

安藤賢司

安藤 そうなんです! 今回どこまでバリエーションを行うかわからなかった中で、少なくとも当初から発表されていたルナトリガーなどは作ろうということになっていたんです。そこも考えて全部盛り込まなきゃいけなかったものの、正直けっこう考える時間はなかったですけど(笑)。

──のちにリリースされる商品に繋げるギミックをはじめから入れることは、わりと珍しいのでは?

安藤 いえ、実は毎回のことなんです。電王 ソードフォーム(S.I.C. VOL.42 仮面ライダー電王 ソードフォーム&モモタロスイマジン)でもフォームチェンジはありましたし。ただ、電王は、元々着ぐるみの上半身しか変わってなかったんですよ。だから、後々出るであろうところを予想した、全体のアレンジを行っていました。
あと、どこを換装すれば変えられるということはある程度わかっているので、その辺りは先に割っておいて、後から取り付けるだけのギミックを仕込んでおいたりしています。

──今回のギミックの再現は、何かインスピレーションを得たきっかけなどはあったのでしょうか?

安藤 何だったかなぁ……(笑)?
何かのおもちゃって遊んでいて……ボーイズトイ事業部さんの、当時出ていたおもちゃの真っ二つになるやつでしたね。
あれはさんざんいじりましたね。真っ二つになるのに、首もけっこう動くんですよね。(構造は)どうなっているのかなと思って、さんざん触りました。最初は「体が真っ二つになるなら、手も足も割らなきゃいけない……」など漠然としたイメージがあったのですが、ボーイズトイ事業部さんのおもちゃの断面を見て、どこを割ればいいか確認できたところがありますね。
その際首の可動を搭載するか悩んでいたのですが、工場での量産の際、分割の直線が乱れてしまう場合があるので、ちょっと保険の為に避けました。

──そこまで考えて作られているんですね。

安藤 最初は首、胴体とすべて割ろうと考えていましたが、首が割れないから胴体も割らなくてもいいか…となり、さらにエクストリームは完全に形が違うので、取り替えるしかありませんでした。
それにエクストリームは真ん中が透明だったので、ここで分割するわけにはいきませんでした。
サイクロンジョーカー以外のフォームは、それぞれの頭部を差し替え用に付属させようという案もありましたが、「それはおもしろくないよね」という話になって(笑)。
逆に工場のほうでも構造を考えてもらって、「これならばそんなには破綻なく再現できる」という方法を見つけてくださって。
結果、ルナトリガー以降の頭部は真ん中で割る仕様になりました。

──頭、首、腹と各パーツが全部半々になっているところにすごくポリシーを感じました。

安藤 こちらが遠慮した部分を工場の方で「実現できます」と言ってくれたところもあるんです。

──安藤さんの熱意と工場側の努力が結実したギミックなんですね。

安藤 半分の顔が並ぶと、きっとおもしろいことになると思います。


■ S.I.C.VOL.59 仮面ライダーWファングジョーカー&スカル

安藤賢司

──ファングジョーカーの試作がアップしていますが、実際に目の前にしていかがですか?

安藤 ちょっとドキドキしています(笑)。

──原型と比較すると、かなりサイズが違いますよね。

安藤 すごいですよね。原型が製品になると、これぐらい収縮されるんです。こんな縮んだのに関節もしっかり再現されていますし、きっと金型完成後も工場の方々は、大変なご苦労をおかけしていると思います。

──造形的なファングの見どころはいかがですか?

安藤 やはりトゲトゲの感じや、ちょっと強そうな感じが上手く出てればいいかなぁと思っています。

──ファングのベルトは、すごく細かい意匠が入っていてカッコイイですよね。

安藤 この造形を頼んだ方が細かく、細かくやってくれました。本物より細かいかもしれないぐらい(笑)。 いつも一緒に作業しているのですが、メモリモードはすべて担当してもらっています。

──今回のメモリガジェットは、すごいですよね。

安藤 商品写真がアップで誌面に載るじゃないですか?本物にしか見えない(笑)。実物は小指くらいのサイズなんですよ。

──ファングメモリにいたっては、変形もしますからね。

安藤 ねぇ…? 何を考えているんだか(笑)。それをまた工場に無茶ぶりをするっていう(笑)。ごめんなさい、すいません!
それはもうファイズフォンから始まってしまっていて……。

──今回は半変形するメモリと、けっこう割腹の良いファングメモリがすごいカッコいいですよね。

安藤 あれも彼は完全変形させるって言い出したんですけど。「軸、何ミリになると思っているの?」と。「それは絶対止めよう、1ミリ軸になったらさすがにマズいから」と、止めました(笑)。

──ダブルが終わったら、きっと『仮面ライダーオーズ』も可能性ありますし、そのときはカンドロイドとかもありますから。終わりがないですね(笑)。

安藤 オーズは竹谷さんの担当かもしれませんよ(笑)。

──わからないですよ(笑)。オーズも3分割のコンボによるフォームチェンジですし、大変なのでは?

安藤 ねぇ(笑)? もしかしたらと思って考えてはいるんです。
でも、実はオーズはダブルより全然簡単そうでした。

──そうなんですか? ダブルは本当に相当苦労されたようですね。でも、逆にこれで技術力が一気にまた上がったのでは?

安藤 どうなんでしょうね、他に転用できる技術力でないかもしれません(笑)。
ただ、関節に対しては、一度実績作ってもらうと次も安心できますよね。
一段ステップアップすれば、それがデフォルトになりますし、さらなる向上の土台になります。

──ファングジョーカーとセットにある仮面ライダースカルについては、いかがでしょうか?

安藤 スカルは(ダブルと違い)真っ二つにはならない、換装しないキャラだったんで「じゃあ、このまま換装しないでいきましょう」と当初、作っていたんです。
ただ、映画を観た人から「胸が開きました!」と聞いて(笑)。

仮面ライダースカル

──『MOVIE大戦CORE』で開きましたよね。

安藤 と言うことで急遽……。結果的にそれほど複雑なギミックには、できなかったんですが……。

──実際に劇中で登場したのは、おそらく数秒くらいの出来事でしたよね。

安藤 ただそこは必殺技に繋がる演出なので。
やはりヒーローものは、必殺技の再現は命題ですからね。それはもう可動になって以降の課題でもあり、仮面ライダー1号を担当した時も竹谷さんに「変身ポーズは取らせてください」と言われました。
当時の関節機構では無理があったと思うんですけど……(笑)。

──そういう意味で今回、ダブルも真っ二つになるんですよね。

安藤 だからそれは必要にかられて……ですよね。劇中に出てくるポーズなりギミックなりを、こちら側に落とし込まざるを得ないんです。


■ 台座セットの付属

仮面ライダーW サイクロンジョーカー

──今回、ダブルシリーズでは、S.I.C.として初めて台座付属のセットになっていますよね。

安藤 ライダーの必殺技は基本的にキックなので、入れなくては……と毎回思っていたんですよ。もちろんファンからの要望も常にありましたし。
ただパッケージ的な難しさ、それに値段に反映されるパーツなので、なかなか実現できませんでした。

──では今回、それが実現したのには、何か理由があったのでしょうか?

安藤 今回は真っ二つになってそれが必殺技、となることで、もう簡単なのでいいから、それこそ板1枚と棒1本でいいから付けましょうよっていう話になりました。そこで、せっかく付属させるのであればしっかりしたベースを作るということになったんです。「大丈夫なのかな?」って、逆にこちらが心配になりました(笑)。
でも、バンダイさんは「大丈夫です!」とおっしゃったので。

──台座をセットにしたことで、ヒートジョーカーなどの必殺技……パンチですけど、再現ができたりと、すごく練られたセット内容になったと思います。

安藤 最近のコレクターズ事業部さんのアイテムは、S.H.Figuartsも含めて、ディスプレイする際に『台座と商品がセット』みたいになっていますよね。今まではS.I.C.のディスプレイは、聖闘士聖衣神話の別売り台座を代用するのが一番よい、とファンの方からは言われていましたが、なかなか専用のはなかったので。
今回から専用化していくのかどうかは、バンダイさん次第ですね(笑)。
そういう意味でも、仮面ライダーWシリーズは、ターニングポイントになるかもしれません。


魂の骨格 第20回 原型師 安藤賢司(後編)は2011年6月3日(金)の公開を予定しています。 お楽しみに。


安藤賢司

安藤賢司 (あんどう けんじ)
1963年生まれ/神奈川県出身

S.I.C.シリーズでは竹谷氏とともにメイン原型製作をつとめる。フィギュアの原型製作だけでなく、アニメやゲーム等のキャラクターデザインも手がけ、多方面で活躍中。性格:温厚。

 


仮面ライダーWファングジョーカー&仮面ライダースカル
S.I.C.
Vol.59 仮面ライダーWファングジョーカー&仮面ライダースカル


価格(税込):6,300円
発売日:2011年8月発売
対象:15才~


商品詳細ページはコチラ
 


S.I.C.

[ S.I.C. ]
造形界のトップクリエイター竹谷隆之氏、安藤賢司氏による、「デザインの美しさ」「造形技術の巧みさ」といった、芸術美に焦点を当てたフィギュアシリーズ。「ニューマテリアル」「ハイクオリティ」「プレイバリュー」「オリジナリティー」の4コンセプトを共存させ、キャラクターフィギュアの新しい概念を構築した。


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