魂の骨格 第30回 特技監督 佐川和夫

特技監督 佐川和夫 ウルトラマンガイヤ ガイヤ登場シーンの秘密


佐川監督の2回目は、劇中で印象的なガイアの登場シーン、 そして第1話の特撮シーンについて話を伺った。土砂を巻き上げ降り立つ巨人、水浸しになる地下街など、 これらの案は何処からもたらされたのであろう。そして数々のウルトラに関わってきた監督にとって、『ウルトラマンガイア』とはいかなる存在だったのであろう。


■ 普段から「もし怪獣が出現したらどうなるか」を真面目に考えることが大事なんです。

── 本作の主役ウルトラマンのガイアですが、出現時の土砂を舞い上げるシーンが印象的でした。 

佐川 あれは僕も好きなシーンです(笑)。それまではウルトラマンは誰もが知る存在と思っていましたが、いつからか「ウルトラマンとは何だろう?」と考えるようになったんです。こんな考えをするようになったのは歳をとってからなんですけどね(笑)。これもそんな考えから生まれた発想で、体重4万2千トンの巨人が着地したらああなるだろうと。むしろ誰もやらなかったのが不思議なくらいですね。そこで「こんな映像を撮りたい」と話をしたら、操演の人がアイデアを出してくれて、その通りに撮ってみたら悪くなかった。本番では10倍速で撮れるカメラを使っています。そしたら他の監督さんも撮り始めちゃって。ああいう演出は大事なところで使うから良いのに(笑)。

ULTRA-ACT ウルトラマンガイア(V2)

── あのシーンは背景の照明も凝っていますね。

佐川 高感度フィルムを使えばそれほど難しい技術ではありません。またデジタル技術があったからこそ可能だった映像で、アナログでは白い背景に負けて細かい粒子までは映らなかったでしょうね。でもフィルムを使わないVTRだったらあの「味」は出せなかったと思うので、デジタルとアナログの違いを把握してないと難しいですね。ガイアは着地するシーンの他に地面を滑るシーンも撮りました。ウルトラマンの靴底に鉄板を履かせ、砂をまいたセットの上で滑らせ、それに合わせて火薬を爆発させたんです。タイミングが合わずに3回くらい撮り直しました。

── そして本編。佐川さんがウルトラの第1話を手がけるのは『タロウ』以来25年ぶりとなりますが。

佐川和夫

佐川 そんなに経ちますか(笑)。『ガイア』のときは後に『コスモス』があるとは思っていなかったので、「見せられるものはすべて見せよう」と頑張りました。第1話の撮影はオープニングと今後も使えそうなシーンも撮っていたので40日もかかったんですよ。いや、実際にはそれ以上ですね。話が来てからストーリーボードを作り、何度も企画会議をしてイメージを固めました。それだけ力を入れないと皆さんも納得しないと思ったんです。初代の『ウルトラマン』や『帰ってきたウルトラマン』の頃ならここまでしなくても良かったと思います。でも『ガイア』の頃は「自分が関わるのはシリーズとしては最後かもしれない」という意気込みで撮りました。

── 怪獣の出現シーンが印象的でした。結晶に包まれた怪獣が着地すると地下貯水池が破裂し、地下街が水浸しになるという大スペクタクルでした。

佐川 ただ怪獣がドーンと落ちてくるだけでは面白くないので、以前に知人から聞いた地下貯水池を再現したんです。ただ、あれだけのセットを組むスペースがビルト(※)になかったので野外にセットを組んで撮影しました。大量の水を使うのでセットも水浸しになりますしね。最初のシノプスでは「怪獣が街に落ちてきて暴れる」としか書いてなくて、台本段階で地下街を壊すという描写を加えてもらい、特撮を前提にドラマを膨らませてもらいました。とは言え、あまり激しくやると子供が怖がるのでそこは加減しています。あれは第1話としては従来の4倍の予算をかけてしまったんですよ。後でかなり怒られましたね(笑)。

佐川和夫

──佐川さんが撮影でこだわられていることは何でしょう?

佐川 「もし怪獣が実際に出現したらどうなるか」を真面目に考えることです。あと日々の観察力も大事なんですよ。円谷のオヤジさんには、味噌汁をかき混ぜているときに爆発の曇を撮る方法を思い付いた……という有名な話があります。自分の場合は電車が高架線を通ったとき、下に見える町並から怪獣の目線を考えたりしました。これは教わって身に付くものではないんですよ。

── それでは実際に「ULTRA-ACT ウルトラマンガイア(V2)」と「U.M.W. XIGファイター」をご覧になった感想をお聞かせ下さい。

佐川 このガイアは関節まで動くんですか? 凄いですね。ファイターには「汚し」まで塗装されていて感心しました。これを作った人はかなり研究していますね。実際のミニチュアはここまで精密には作れないし、手作りなので2機くらいしか作れないんですよ。私が13年前に撮った映像からこんな商品が出るのは嬉しいですね。『ガイア』の時にあったら撮影に使ってます(笑)。

佐川和夫

── では最後にお答え下さい。初代ウルトラマンからシリーズに関わってきた佐川さんにとって、『ウルトラマンガイア』とはどんな位置にある作品なのでしょう?

佐川 ウルトラマンは青春をかけたシリーズなので、自分にとってはとても大切な存在です。そして長く続いたシリーズゆえに、我々は次々と「良い映像」を撮らなければならなかったんです。その中でより一層リアルさを求めることが出来たのが『ガイア』です。この作品に関しては自然にイメージが湧いてきたのですが、TVでここまでできたことは自分でも驚きました。お陰様で久々に思い出させていただきました(笑)。

※:東宝ビルト。世田谷区に存在した撮影所でウルトラシリーズを始め数々のTVドラマや映画が撮影された。2008年閉鎖。

 

佐川和夫

佐川和夫 (さがわ かずお)
1939年10月29日生まれ

東宝特殊技術課を経て、円谷プロ創立時の1964年に入社。
『マイティジャック』で特技監督デビューし、ウルトラシリーズ、『猿の軍団』、『スターウルフ』など数多くの円谷作品に携わる。またアメリカや香港などの海外でも特撮監督として活躍。劇場版『仮面ライダー 8人ライダーVS銀河王』、『バトルフィーバーJ』、『超光戦士シャンゼリオン』などの東映作品も手がけている。

 

 

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