魂の骨格 「真骨彫製法 仮面ライダーBLACK」商品化記念インタビュー<1> 石森プロ・早瀬マサト
2020-10-26 11:00 更新
「S.H.Figuarts 真骨彫製法」仮面ライダーシリーズのラインナップに、ついに「仮面ライダーBLACK」が加わる。そこで、作品に縁の深いお二人の方々に取材を敢行。第一弾は、『仮面ライダーBLACK』シリーズ当時に石森プロに入社され、原作者・石ノ森章太郎氏のアシスタントも務められた早瀬マサト氏。当時の裏話から、商品試作をご覧いただいてのお話までたっぷりと語っていただいた。
■Long Long Ago ――『仮面ライダーBLACK』当時のエピソード
──早瀬さんが石森プロに入社したのは漫画版『仮面ライダーBlack』がきっかけだそうですね。
早瀬:『あの頃の僕はファンの一人で、石ノ森先生が久しぶりに少年誌で『仮面ライダー』を連載されると知り心が色めき立っていました。そして「週刊少年サンデー」を毎週楽しみにして読んでいたのですが、ある時に誌面の外側にある「柱」にアシスタント募集の告知が載っていたんです。当時はまだ大学生でしたが「これはチャンスだ!」と思い応募しました。しかし、それは『Black』終了後の企画を見据えての募集だったので、自分が入社したのは大学を卒業した後の平成元年だったんですよ。既にテレビでは次回作の『仮面ライダーBLACK RX』が始まっていました。
──『仮面ライダーBlack』に関して早瀬さんがご存じの事があればお教えください。
早瀬:一番最初の『仮面ライダー』は講談社の「週刊ぼくらマガジン」で連載が始まり、後に「週刊少年マガジン」へと移りました。ですから『仮面ライダーBlack』も最初は「週刊少年マガジン」での連載を予定していました。でも当時の「週刊少年マガジン」は路線の異なる漫画が多く、雑誌のカラーに合わないという事で「週刊少年サンデー」での連載になったそうです。自分は石ノ森先生と『Black』について深く話した事はありませんが、先生にとっては並々ならぬ意欲をもって始めた作品だったと思います。企画段階では『仮面ライダー0号』と呼ばれていた事から分かるように、『仮面ライダーBlack』は原典回帰を目指した作品だったんですよ。かつての『アマゾン』や『仮面ライダー(新)』のように。
──そのタイトルですが、テレビが『BLACK』なのに対して漫画が『Black』だったのは何故でしょう?
早瀬:その「こだわりのなさ」が石ノ森先生の特徴でもあるんですよ。他にも『がんばれ!!ロボコン』も漫画版は「!!」マークのない『がんばれロボコン』ですし、『人造人間キカイダー』に登場するビジンダーの変身前も、テレビはマリでしたが漫画版はミエコでした。このようなネーミングになったのは、先生の中に「テレビと漫画は違って構わない」という気持ちがあったからだと思います。「漫画には漫画の、テレビにはテレビの良さがある。だから独立しても構わないんだ」という考えですね。ちなみに僕も昨年まで『幻魔大戦Rebirth』という作品を描いていたのですが、『Rebirth』のRだけを大文字にしたのは『Black』のオマージュなんです(笑)。
──『仮面ライダーBLACK』放送当時、一ファンとして作品に対してどのような印象をお持ちでしたか?
早瀬:まず、あの真っ黒な出で立ちにビックリしました。それまでのライダーにはない生物的なリアルさが衝撃でしたね。関節から筋肉組織が露出した外見なんてグロテスクになりがちですが、それをヒーローのデザインに落とし込んでいるのが素晴らしい。これは先生ご自身から聞いた話ですが、あの筋肉組織は随分とこだわったそうです。あの筋肉表現って最初の撮影用スーツにはなく、体表もロボットのように艶があって、マスクのクラッシャー部分もシルバー一色で塗られただけでした。これを見た石ノ森先生から「もっと生物っぽくしたい」と要望が出て、関節部に筋肉組織が追加され、体表を艶消しにし、口の周りにもシャドー吹き塗装が追加されたんです。
──仮面ライダーの記号であるグローブやブーツ、マフラーを撤廃したデザインには衝撃を受けました。
早瀬:グローブやブーツは「ライダー」から導き出された意匠ですが、そのような常識は時代を経るに従い変わっていくものですからね。マフラーも当時は古いという感覚だったのでしょう。このスタイルは後の平成ライダーにも受け継がれました。でもマフラーは『仮面ライダーW』で復活しました。あれは「風のライダー」という設定だったので、風を表現するためのアイデアだったんです。
──また好敵手シャドームーンの存在も忘れられません。
早瀬:黒い主役ライダーに対するシルバーのシャドームーン、そのカラーリングの対比が素晴らしいですね。村上克司さんが得意とするメカニカルなラインとライダーが融合した素晴らしいデザインです。歩く度に足首のレッグトリガーが動くのも斬新でした。そのように新しい事にチャレンジしようとするスタッフの思いが、『仮面ライダーBLACK』という作品の質を高めていました。
──そして後番組として『仮面ライダーBLACK RX』が制作されたのも『BLACK』ならではのポイントですね。
早瀬:同じ主人公で続編が作られる事はシリーズ初の試みでした。でも個人的にはライダーが武器を使ったり車に乗ることに最初は違和感を感じていたんですよ。今の自分の立場ではよろしくない発言だと思いますが(笑)。でも原作者の石ノ森先生がOKしたので納得したんです。そしてRXという前例があったからこそ、私が関わった「平成仮面ライダー」が武器を持ったり車に乗ることには抵抗なかったです。「石ノ森先生がやった事なので問題ない」と。言ってしまえばRXが免罪符になったわけです(笑)。
■時を超え ――真骨彫製法で再びよみがえるBLACK
──ここからはS.H.Figuartsについてお聞きします。近年のフィギュアの完成度を見てどう思われますか?
早瀬:当時からBLACKはアクションフィギュア化に恵まれていたんですよ。南光太郎フィギュアにスーツを着せる「仮面ライダーBLACK Full Action」や、テレビ画面のフラッシュを受けると変身ポーズをとる「DX変身 仮面ライダーBLACK」など良い商品がありました。さすがに劇中とまったく同じポーズは再現できませんでしたが、そんな当時のファンの不満を技術の進歩が解消してくれました。最初のS.H.Figuartsの後によりリアルな商品が出て、さらに今回の真骨彫製法は決定版だと思いました。
※画像左から、2009年発売版、2013年発売版、そして一番右が2021年発売予定の「真骨彫製法」版。
──初期のS.H.Figuartsは記号として合っていればフィギュアなりのアレンジが加わっていても問題なかったのですが、技術の進歩と共にユーザーの目も肥え、フィギュアに本物と同じバランスまで求められるようになりましたからね。
早瀬:最初のS.H.Figuarts担当者から聞いた話だと、テレビよりもヒロイックなプロポーションがコンセプトだったそうなんですよ。コンセプト自体が違うのだから新旧を並べて比較すること自体が間違っているんです。オモチャとしてはどちらも正解という訳ですからね。
──今回のS.H.Figuarts(真骨彫製法) 仮面ライダーBLACKをご覧になった感想はいかがですか?
早瀬:光沢のある頭と肩に対して、艶のない梨地のような身体。そんな質感の違いまで再現している事に開発者のこだわりを感じました。そして左胸の「リンゴを呑み込もうとする蛇」のマーク。これまでは印刷で処理されていたのが、ちゃんと凹みまで再現しているのに感心しました。また赤と黄色のストライプの入り方もちゃんと再現されているし、首のディテールをここまで再現したアクションフィギュアは初めてだと思います。素晴らしいです。
──S.H.Figuartsで商品化を希望するキャラクターはいますか?
早瀬:先日、発売された『仮面ライダーOOO/オーズ』のアンク(人間態)が、あまりにも良く出来ていて印象的だったんですよ。あの「魂のデジタル彩色」技術を使って死神博士を出してほしいですね。昔、食玩で固定ポーズのフィギュアが出ましたが、今ならそれ以上にリアルな死神博士が作れると思うんですよ。素顔系幹部は肖像権の都合で実現が難しそうですが、『V3』第27話のショッカー幹部勢揃いを再現したいですね。
■平成、そして令和へ ――仮面ライダー時代を駆ける
──昭和に誕生した『仮面ライダー』が『BLACK』を経て、平成と令和シリーズに受け継がれました。このように仮面ライダーが長く続いている理由は何だと思いますか?
早瀬:かつて石ノ森先生はこう仰っていたんですよ。「仮面ライダーは時が来れば必ず復活するので、ブランクがあっても慌てることはない。だから君達は仮面ライダー以外の企画を考えなさい」と。そして実際に今もこうしてシリーズが続いています。それは仮面ライダーが時代に合わせて柔軟に変化したからだと思うんですよ。先ほどお話ししたようにトレードマークのマフラーを捨て、グローブやブーツの表現も廃止しましたが、そのように新しいものを生むためには過去のものを否定する事も大切なんですよ。あまり過去に囚われるとシリーズとして前に進めないし、新規のファンも呼び込めなかったと思います。そして平成ライダーの奇想天外なデザインに驚かれた方も多いと思いますが、石ノ森先生が考えられたライダーの未採用案にも突飛なデザインが多かったんですよ。とてもヒーローのデザインとは思えない顔だったり、胸のコンバーター・ラングがライダーの顔になっていたり、その振り幅の広さには私も驚かされました。だから平成シリーズにブッ飛んだデザインのライダーが出てきても、所詮は石ノ森先生の手のひらの上で踊っているに過ぎないんです。ですからライダーのデザインを担当される方は大変だと思いますよ。「いかにして石ノ森先生の手のひらから逸脱するか」という戦いですから(笑)。
──『クウガ』からは改造人間という設定も無くなりましたね。
早瀬:それは医療技術が発展して人工臓器移植などが当たり前の時代になったからです。しかし、そのような人工臓器はあくまでも代替品であり、ライダーのようなスーパーパワーを得るわけでなく、それどころか苦しんでいる方もいらっしゃいます。それで改造人間という設定はオミットせざるを得なくなりました。最初はライダーらしさを失うのではないかという懸念はありましたが、差別を助長する恐れがあるヒーロー番組を作るわけにはいきませんからね。また一つの作品に複数のライダーが登場するようになったのは、正義は決して一つではなく、立場や人によって様々という時代の縮図みたいなところもあると思います。
──最後にファンにメッセージをお願いします。
早瀬:このS.H.Figuarts(真骨彫製法) 仮面ライダーBLACK、筋肉組織部分の可動には苦労されたとお聞きました。その甲斐あってか、これまでの可動フィギュアは可動部が目立ってしまうのですが、このBLACKは固定フィギュアにしか見えない仕上がりになっています。おそらく並々ならぬ努力があったのだと思います。僕も商品が完成するのが楽しみです(笑)。
──商品が届いたらどのように遊びますか?
早瀬:もちろん会社に飾らせていただきますが、絵を描く時のデッサン人形としても活用できそうですね。だから何時でも手に取れる場所に置こうと思います。それもあって、このようなアクションフィギュアを手にした時、どこまで動くのか必ず確認するんですよ(笑)。もちろん限界はあるので、自分が描きたいポーズまで達しない時は想像力で補っています。でも、ここまで可動範囲が広ければ想像力を働かせなくても済みそうですね。後は、これに対応したバトルホッパーもぜひ出してほしいです。
【プロフィール】
早瀬マサト(はやせ・まさと)
1965年、愛知県名古屋市生まれ。1989年に石ノ森章太郎のアシスタントとして石森プロに入社し、数々の石ノ森作品にスーパーバイザーとして参加。自らも漫画家兼小説家として活躍している。『仮面ライダー』シリーズには資料担当として『クウガ』から参加し、次作『アギト』からはキャラクターデザインや監修などを担当した。漫画家としての代表作は『サイボーグ009 トランプ・タワー編』、『シージェッター海斗』、『幻魔大戦 Rebirth』、『8マンVSサイボーグ009』など。
取材協力:ワールドフォトプレス「フィギュア王」編集部/撮影協力:加藤文哉
S.H.Figuarts(真骨彫製法)
仮面ライダーBLACK
発売日:2021年4月予定
メーカー希望小売価格:7,700円(税10%込)
スクリーンの中で活躍するヒーローたち。力強いアクション、その魂の躍動を約14cmの中で再現するのが、S.H.Figuartsの新たな造形技術「真骨彫製法」だ。 「真骨彫製法」とは、表面的でなく骨格から造形を行い、ヒーロー本来の「存在感」とフィギュアとしての「自然な可動」の両立を追求した新製法である。 |
©石森プロ・東映
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